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legal 2026.04.25 約12分

【タイ企業の日本進出】第3回 会社設立の実務 ― 定款・資本金・登記・銀行口座開設

日本進出を検討するタイ企業向けに、日本法人設立の実務を解説。株式会社・合同会社の選択、タイ親会社書類の領事認証、定款の電子認証、資本金送金と外為法のタイミング整合、設立登記と実質的支配者(BO)申告、税務署・年金・労基への各種届出、インボイス登録、そして最大の難関である法人銀行口座開設対策まで、タイ企業特有の落とし穴を整理します。タイ企業の日本進出シリーズ全6回の第3回。

本記事は「タイ企業の日本進出」シリーズ全6回の第3回です。第1回で進出形態を、第2回で外為法上の事前届出・事後報告を整理した読者が、いよいよ実際に日本法人を設立する段階に進みます。会社設立そのものは「書類を整えて法務局に申請するだけ」と捉えられがちですが、タイ企業(外国法人を発起人・親会社とする日本法人)の場合、親会社書類の領事認証、資本金送金と外為法手続のタイミング整合、実質的支配者の申告、そして法人銀行口座開設という、内国企業の設立とはまったく異なる障壁が随所に現れます。本記事は2026年4月時点の公開情報を基準としています。


なぜ「設立そのもの」が難所になるのか

日本人の起業家が株式会社を設立する場合、書類完備から登記完了まで実質2〜3週間で終わります。一方、タイ親会社が日本に100%子会社を作る場合、典型的なタイムラインは3〜6か月に伸びます。理由は単純で、内国企業設立では発生しない以下の工程が積み重なるからです。

  • タイ親会社の取締役会決議・登記簿謄本(Affidavit)・代表者サイン証明の取得と領事認証
  • タイから日本への資本金送金と、第2回で扱った外為法事前届出との同期
  • 設立登記に併せて行う実質的支配者(BO)申告でのタイ最終株主まで遡る情報収集
  • 設立後の法人銀行口座開設で求められる物理オフィス・事業実態・代表者対面審査

これらを軽視して進めると、登記は完了したのに口座が開設できず3か月間営業が停滞する、といった事態が容易に発生します。設立段階でも経営判断が必要なのは、まさにこの理由です。


株式会社(KK)と合同会社(GK)の選択

第1回で形態は決まっているはずですが、設立段階で改めて費用と所要時間を確定させます。

項目株式会社(KK)合同会社(GK)
登録免許税(最低額)15万円(資本金×0.7%)6万円(資本金×0.7%)
定款認証手数料3万〜5万円(資本金額別)不要
電子定款印紙税免除(紙定款は4万円)同左
信用度(取引先・銀行)
機関設計の柔軟性高(取締役会・監査役等を選択)高(社員=業務執行社員)
タイ企業の典型用途本格事業・将来の上場/M&A想定販売子会社・小規模拠点

タイ親会社が100%出資し、日本での販売・サービス提供を主目的とする小規模拠点なら合同会社で十分機能します。一方、日本国内で銀行融資を受ける、上場企業との大型取引を狙う、将来の現地上場・M&Aを視野に入れる場合は、初めから株式会社で設計しておく方が後の組織変更コストを避けられます。

資本金額は会社法上1円から可能ですが、2025年10月16日施行の上陸基準省令改正により、経営管理ビザ(在留資格)の取得には資本金等3,000万円以上が必須要件となりました(第4回で詳述)。改正前は500万円以上が安全圏とされていましたが、改正後は3,000万円が下限で、これに加えて常勤職員1名以上の雇用、申請者または常勤職員の日本語B2相当能力、申請者の経営経験3年または修士・専門職学位、事業計画書の中小企業診断士・公認会計士・税理士による確認等の6新要件が課されます。したがってタイ企業の対日進出における日本子会社の資本金は、経営管理ビザ取得を視野に入れる場合は3,000万円以上を基本水準とすべきです。銀行口座開設審査でも資本金は事業実態の指標として見られるため、3,000万円という規模は信用面でもプラスに働きます。


タイ親会社側で準備する書類と領事認証

日本での設立登記に向けて、タイで取得・認証しておく必要がある書類は次のとおりです。

書類内容
取締役会議事録日本子会社の設立、出資額、代表取締役指名、定款署名権限の決議
登記簿謄本(Affidavit)タイ商務省DBD発行の英文証明
サイン証明・パスポートコピー親会社代表者または日本側代表取締役予定者のもの
親会社定款必要に応じて添付

ここで実務上の最重要論点が認証経路です。2026年4月時点で、タイはハーグ条約(Apostille条約)に加盟していません。 2025年12月にタイ閣議が加盟方針を承認したと報じられていますが、加盟書の寄託は完了しておらず、発効までは現行の領事認証ルートが続きます。したがってタイで作成された書類を日本の登記実務で使うには、以下の二段階認証が必要です。

  1. タイ外務省領事局(Department of Consular Affairs, Chaeng Watthana)で書類の真正性認証
  2. 在タイ日本国大使館で領事認証(Consular Legalisation)

所要日数は、タイ外務省で1〜2週間、在タイ日本大使館で1〜3営業日。書類取得から認証完了まで2〜4週間を見込むのが安全です。日本語翻訳も必須で、翻訳に相違ない旨の宣誓供述書を翻訳者が作成して添付するのが一般的な実務です。

なお、タイのApostille加盟が今後発効した場合、二段階認証は外務省Apostileの一段階に簡素化されます。設立を急がない案件では発効動向を注視する価値があります。


日本側の準備 ― 代表取締役・本店所在地

代表取締役の居住要件は、2015年3月16日付法務省民商第29号通達により全員が日本非居住者でも登記可能となりました。法的な障壁はありません。ただし、実務上は日本居住の代表取締役を最低1名置くことが強く推奨されます。理由は次のとおりです。

  • 法人銀行口座開設で大半の銀行が代表者の対面審査を求める
  • 税務申告・社会保険手続で住所地が要求される場面が多い
  • 緊急時の意思決定・押印が物理的に必要になる

タイ駐在員を派遣する場合、経営管理ビザの取得が必要ですが、設立登記時点では未取得でも構いません(第4回で詳述)。

本店所在地は会社法上は事務所所在地住所があれば足り、バーチャルオフィスでも登記自体は通ります。しかし法人銀行口座開設の段階で大半の銀行が物理的オフィスの存在を確認するため、バーチャルオフィスのみで設立すると後段で詰みます。最低限のレンタルオフィス・コワーキング個室・物理的賃貸事務所の確保を強く推奨します。


定款の作成と公証人認証

株式会社の定款には会社法第27条が定める絶対的記載事項(目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額または最低額、発起人の氏名/名称及び住所)を漏れなく記載します。

公証人による認証手数料は、2022年改正後、資本金額別の3区分に整理されました。

資本金額認証手数料
100万円未満3万円
100万円以上 300万円未満4万円
300万円以上5万円

※ 2024年12月1日施行の公証人手数料令改正により、上記とは別に、資本金100万円未満かつ発起人全員が3人以下の自然人で発起人が設立時発行株式の全部を引受け取締役会非設置の場合、1万5,000円に半額化されました。ただしタイ親会社が発起人となる対日進出案件では発起人が法人となるため半額化の対象外となり、上記の3〜5万円(資本金額別)が引き続き適用されます。

**電子定款(PDF+電子署名)**を選択すれば、紙定款で必要な印紙税4万円が免除されます。実務では電子定款が標準です。タイ親会社が発起人の場合、親会社代表者の電子署名取得が困難なため、日本側の代理人弁護士・司法書士が委任状を受けて電子定款認証手続を代行するのが通常です。

合同会社は定款認証そのものが不要で、社員(出資者)と業務執行社員の指定を定款に記載すれば済みます。


資本金の払込

法人格取得(設立登記完了)前は法人口座を開設できないため、資本金は発起人個人の銀行口座(タイ親会社代表者または日本側代表取締役予定者の個人口座)に振り込みます。タイ親会社からの送金が指定業種への投資に該当する場合、第2回で扱った外為法事前届出の審査完了後でないと送金できません。順序の取り違えは「禁止期間中取引」として明確な違反となるため、スケジュール上の最重要チェックポイントです。

払込みがあったことを証する書面として、通帳の表紙・該当ページ・振込明細のコピーを用意し、設立時代表取締役が証明書を作成します。払込から登記申請まで日が空きすぎると追加証明を求められることがあるため、払込の1〜2週間以内に登記申請まで進めるのが実務上の目安です。


設立登記の申請

提出先は本店所在地を管轄する法務局で、申請方法は書面・オンライン・法人設立ワンストップサービス(マイナポータル経由)の3通りです。法人設立ワンストップサービスは税務・社会保険まで一括で進められる便利な仕組みですが、マイナンバーカードまたは商業登記電子証明書を持つ日本居住の代表者が前提となるため、タイ親会社側のみで完結させるのは実務的に困難です。日本居住代表者がいる構成なら活用余地があります。

主な添付書類は次のとおりです。

  • 認証済の定款
  • 発起人決定書または発起人会議事録
  • 設立時取締役の選任決議書・代表取締役の選定書
  • 払込みがあったことを証する書面
  • 設立時取締役の就任承諾書
  • 設立時取締役の印鑑証明書(日本居住者は市区町村発行、非居住者は本国官公署発行+領事認証)
  • 法人実印の届出書
  • 登録免許税の領収証書

実質的支配者(BO)の申告(商業登記規則第61条)も同時に行います。議決権の25%超を直接または間接に保有する個人の氏名・住所・国籍等を申告するもので、タイ親会社100%出資の場合はタイの最終株主(多くはタイ人個人またはファミリービジネスのオーナー)まで遡って申告する必要があります。タイ親会社が上場企業で最終的な個人支配者がいない場合の取扱いも含めて、事前に親会社側で情報を整理しておくことが必要です。

登記完了は申請から1〜2週間。完了後、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)と印鑑カードを取得し、国税庁から法人番号(13桁)が自動付番されます。


法人成立後の各種届出

設立登記完了の翌日から、提出期限の短い各種届出が連続します。

提出先届出名期限根拠
税務署法人設立届出書設立後2か月以内法人税法148条
税務署青色申告承認申請書設立後3か月以内 等法人税法121条
税務署給与支払事務所等開設届出書開設後1か月以内所得税法230条
税務署適格請求書発行事業者登録申請設立事業年度末まで消費税法57条の2
都道府県・市町村法人設立・設置届自治体規定地方税法
年金事務所健康保険・厚生年金 新規適用届事実発生から5日以内健保法・厚年法
労働基準監督署労働保険関係成立届雇用後10日以内労働保険徴収法
ハローワーク雇用保険適用事業所設置届雇用後10日以内雇用保険法

インボイス制度(2023年10月開始)は、新設法人にとって特に重要です。設立した事業年度の末日までに適格請求書発行事業者の登録申請を行えば、設立日に遡って登録されたものとみなされる特例があります(消費税法57条の2第2項)。タイ企業の日本子会社が取引する相手のほとんどは課税事業者であり、適格請求書を発行できないと取引停止のリスクがあるため、設立後の最優先タスクのひとつです。


法人銀行口座開設 ― 設立工程の最大の難関

2018年以降の犯罪収益移転防止法(犯収法)の運用厳格化と、2024年4月1日施行の犯収法改正(FATF第4次対日相互審査結果を受けた改正)による取引時確認の強化(本人特定事項に加えて、取引目的・職業/事業内容・実質的支配者の本人特定事項の確認義務化、ハイリスク取引における株主名簿・登記事項証明書の確認+本人申告の二重確認)により、外資系・新設法人の口座開設審査は大幅に厳格化されました。さらに2027年4月1日施行予定の改正では、本人確認書類の画像情報送信や写しの送付による方法が原則廃止され、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化される方向です(タイ人代表者はマイナンバーカード未取得のため、対面確認や在留カード+パスポートの実物確認の重要性がさらに増す見込み)。設立登記が終わっても、口座開設までさらに2〜8週間を要するのが一般的で、メガバンクでは2か月以上かかる事例も珍しくありません。

項目内容
必須書類履歴事項全部証明書、印鑑証明書、代表者本人確認書類、実質的支配者申告書
補強書類事業計画書、取引先リスト、賃貸借契約書、親会社財務諸表
審査期間2〜8週間(メガバンクは長期化傾向)
拒否される典型バーチャルオフィスのみ・代表者非居住・事業実態不明・BO確認困難
対策物理オフィス確保、複数行同時申込、代表者対面審査、事業計画詳細化

実務上の対策は次のとおりです。

  • メガバンクとネット銀行・地方銀行を並行して申し込む。ネット銀行・地方銀行のなかには外資・新設法人にも比較的開放的な姿勢を示す先があります
  • 事業計画書を詳細に作成し、初年度の売上見込・主要取引先候補・タイ親会社との取引内容を具体的に記載
  • 初回は代表者本人が来店し対面審査に応じる体制を確保
  • 取引先候補との契約書草案・LOI(Letter of Intent)を準備
  • タイ親会社の財務諸表・与信情報を提供できる体制

設立から口座開設まで1〜3か月を見込み、その間の運転資金は親会社からの立替や代表者個人口座経由でしのぐスケジュールを組むのが現実的です。


設立から事業開始までのタイムライン

D-90  タイ親会社 取締役会決議/Affidavit取得開始
D-75  書類認証完了(タイ外務省→在タイ日本大使館 領事認証)
D-60  日本側 商号調査・本店所在地確定・賃貸契約
D-45  外為法 事前届出(指定業種該当時、第2回参照)
D-30  定款作成・公証人による電子認証
D-21  資本金 払込(発起人個人口座へタイから送金)
D-14  設立時取締役選任・実印作成・BO申告書作成
D-7   設立登記申請(法務局)
D-0   登記完了・履歴事項証明書取得・法人番号付番
D+7   税務署届出(5種類+インボイス登録)
D+10  年金事務所・労基署・ハローワーク届出
D+14  法人銀行口座開設申込(複数行同時)
D+30〜D+90  口座開設完了 → 事業本格稼働

典型的な落とし穴

  • タイ親会社書類の認証経路ミス ― 2026年4月時点でタイは未加盟のため、Apostileではなくタイ外務省→在タイ日本大使館の二段階認証が必要
  • 資本金送金タイミングが外為法事前届出審査前 ― 「禁止期間中取引」として明確な違反になります
  • バーチャルオフィスで設立 ― 登記は通っても、銀行口座開設の段階で物理オフィスを求められ詰む典型ケース
  • BO申告でタイ最終株主の情報が揃わない ― 申告漏れは過料の対象。事前に親会社側で情報整理が必要
  • インボイス登録忘れ ― 設立事業年度末までの登録申請を逃すと、設立日への遡及登録ができず取引先からの信用を損ねます
  • 代表取締役を全員タイ居住者にした ― 銀行対面審査に応じられず、口座開設不可になります
  • 定款の事業目的が抽象的 ― 後から許認可業種を追加する必要が生じ、目的変更登記の手間とコストが発生
  • 資本金1円で設立した ― 経営管理ビザ・銀行口座開設の双方で実態を疑われ、結果的にコスト増

タイ側の社内手続も忘れずに

日本側の手続と並行して、タイ親会社側でも以下が必要です。

  • 取締役会決議(民商法典の規定に従い、対外投資の承認)
  • 公開会社の場合、株主総会決議(資産の一定割合を超える投資の場合)
  • BOTへのODI申告(Authorized Agent経由、第2回参照)
  • BOIの**Thai Overseas Investment Support Center(TOISC)**の活用検討

これらが完了していないと、形式的には日本側で設立できてもタイ国内で外為管理法違反となり、後の追加投資・配当送金で支障が出ます。


次回予告

第4回では、設立した日本法人で代表者・主要メンバーが活動するために必要な在留資格、とりわけ2025年10月16日に大改正された経営管理ビザの取得要件と実務を扱います。新基準では(1)資本金等3,000万円以上、(2)常勤職員1名以上の雇用(日本人・特別永住者・別表第二在留資格者に限定)、(3)申請者または常勤職員の日本語B2相当能力、(4)申請者の経営経験3年または修士・専門職学位、(5)事業計画書の中小企業診断士・公認会計士・税理士による確認、(6)自宅兼用事業所は原則不可、という6つの新要件が課されており、本記事で設計した会社設立スキームと接続しながら整理します。既存ビザ保有者には2028年10月16日まで3年経過措置が設けられています。


お問い合わせ

タイ企業・タイ資本による日本進出について、株式会社・合同会社の選択、定款設計、外為法事前届出と資本金送金の同期、タイ親会社書類の領事認証取得サポート、設立登記、各種届出、法人口座開設対策まで、JTJBバンコクオフィス(タイ親会社側書類取得・認証実務)と弁護士法人戸野・田並・小佐田法律事務所(東京・日本側設立登記・銀行口座対策)が連携してワンストップでサポートいたします。設立準備の初期段階からのご相談を承ります。


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本記事は2026年4月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。会社法・公証人手数料・インボイス制度・実質的支配者申告制度・タイのApostille条約加盟状況は随時改正されます。具体的な案件については、必ず最新の法令・告示・通達をご確認のうえ、専門家にご相談ください。当事務所ではJTJB International Lawyersのタイ人弁護士および弁護士法人戸野・田並・小佐田法律事務所の日本法弁護士が連携して対応いたします。

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