この記事のポイント
- タイ有限会社(Thai Limited Company)はタイで本格事業展開する際の最も一般的な形態
- 外国人事業法(FBA)は、外国資本が51%以上の会社が参入できる業種を規制しており、附表1〜3の確認が不可欠
- 設立手続自体はシンプルだが、外資規制の確認・株主構成の設計が実務上の最大の論点
はじめに
第2回では駐在員事務所・支店の仕組みを解説しました。第3回では、タイで本格的な事業を展開する際に最も多く選ばれる形態である**タイ有限会社(Thai Limited Company / บริษัทจำกัด)と、その設立において避けて通れない外国人事業法(FBA)**の規制を取り上げます。
タイ有限会社とは
法的性格
タイ有限会社は、タイ民商法典(Civil and Commercial Code)に基づいて設立される独立した法人です。日本の株式会社に相当する位置づけであり、次のような特徴があります。
- 法的独立性:株主(出資者)は出資額の限度で責任を負うにとどまります
- タイ人株主の要件:外国人事業法の規制業種に当たる場合、タイ国籍株主が過半数(51%以上)の株式を保有していることが原則として必要です
- 3名以上の株主:設立時には最低3名の株主が必要です(タイ法の要件)
設立の流れ(概要)
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 会社名の予約 | 商務省DBDにて商号の使用可否を確認 | 数日 |
| 2. 定款(MOA)作成・登記 | 目的・資本金・株主構成等を記載 | 1〜2週間 |
| 3. 株式引受・払込 | 創業株主による出資払込 | 数日 |
| 4. 設立登記 | DBDへの法人設立申請・登記簿登録 | 1〜2週間 |
| 5. 税務・社会保険登録 | 歳入局への法人税登録、社会保険事務所登録 | 1〜2週間 |
| 6. 銀行口座開設 | タイ国内銀行への口座開設 | 数週間(銀行による) |
合計で2〜3ヶ月程度が目安となります。
最低資本金
法定の最低資本金の定めはありませんが、実務上は最低100万バーツ程度を設定するケースが多く見られます。なお、外国人就労者(ワークパーミット保有者)1名につき、一定額の払込資本金が就労ビザ・許可の要件として設定されています(目安:外国人1名につき200万バーツ以上が必要とされる場合があります)。
外国人事業法(FBA)とは
制度の概要
「外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542 / พระราชบัญญัติการประกอบธุรกิจของคนต่างด้าว พ.ศ. 2542)」は、タイ国内における外国人(外国資本が51%以上の企業を含む)の事業活動を規制する法律です。
FBAでは、規制業種を以下の3つの附表(リスト)に分類しています。
附表1:禁止業種(参入不可)
いかなる外国企業も参入できない業種。以下のような分野が含まれます。
| 業種の例 |
|---|
| 新聞・ラジオ・テレビ放送 |
| 農業・農園・造林 |
| タイの芸術・文化・工芸・民間技術 |
| タイの骨董品・美術品の取引 |
| 仏像・托鉢鉢の製造 |
| 土地取引 |
附表2:内閣承認が必要な業種
参入には外国人事業許可(FBL)が必要で、さらに内閣(閣議)の承認が求められます。以下のような分野が含まれます。
| 業種の例 |
|---|
| 国家の安全・安全保障に関わる事業 |
| タイの芸術・文化・伝統・民俗に関わる事業 |
| 天然資源・環境に影響を与える事業 |
附表3:外国人事業委員会の許可が必要な業種
附表3はFBAの主要な規制リストであり、幅広い業種が含まれています。外国人事業委員会(Foreign Business Committee / DBD内)の許可(FBL)が必要です。
| 附表3の主な業種カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 会計・法律・建築・エンジニアリングサービス | 専門サービス業 |
| 広告業 | マーケティング・PR代理業 |
| 小売・卸売業(一部) | 規模・業態による規定あり |
| ホテル業(レストランを除く) | 宿泊施設の運営 |
| 建設業(一部) | タイ人技術で対応できる工事 |
| 仲介・代理業 | ブローカー・エージェント業務 |
外資規制の確認フロー
自社の事業がFBAの規制を受けるかどうかは、以下の手順で確認することが考えられます。
flowchart TD
A[事業内容の特定] --> B{附表1に該当する?}
B -- はい --> C[参入不可]
B -- いいえ --> D{附表2に該当する?}
D -- はい --> E[内閣承認+FBL取得が必要]
D -- いいえ --> F{附表3に該当する?}
F -- はい --> G{BOI奨励を受けられる?}
G -- はい --> H[FBA適用除外で参入可]
G -- いいえ --> I[FBL取得 または タイ人過半数の株主構成]
F -- いいえ --> J[外資100%での参入が可能]
BOI奨励によるFBA規制の免除
製造業・ハイテク・物流・医療・デジタル産業等のBOI奨励対象業種であれば、BOI奨励を受けることでFBA附表2・3の規制を受けずに外資100%での事業が可能になります(第4回で詳述します)。
タイ有限会社の株主構成の設計
タイ人株主の確保
FBAの規制業種において外国資本が51%以上を占める場合は原則FBLが必要なため、多くの日系企業はタイ人株主(またはタイ法人)に49%超の株式を保有してもらう構成を取ります。
この際に重要なのは、タイ人株主が真正な実質的所有者であることです。名目だけのタイ人名義株主(Nominee)を用いることは、タイ当局が違法として取り締まりを強化しており、発覚した場合のリスクは会社・株主双方に及びます。
合弁パートナーの選定
真正な合弁パートナーとして信頼できるタイ人・タイ企業を選ぶ場合は、株主間契約(Shareholders’ Agreement)による取締役任命権・議決権の設計が重要になります。この点は第5回で詳しく取り上げます。
まとめ
タイ有限会社は、タイで本格的に事業を行う場合の最も基本的な選択肢です。設立手続のシンプルさもメリットですが、外国人事業法(FBA)による業種規制を事前に確認し、外資比率・株主構成を適切に設計することが実務上の核心的な論点です。
次回予告:第4回「BOI(タイ投資委員会)の奨励制度とは?外資100%・税制優遇の活用法」
タイ有限会社の設立やFBA規制に関するご質問は、お気軽にお問い合わせください。タイ法に関する具体的な対応は、提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたします。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。