この記事のポイント
- タイは2024年7月に関税de minimis(少額免税)を廃止。1バーツから輸入品への課税が始まった
- 日本からの小口商品直送・越境EC事業モデルに直接的な影響がある
- VATプラットフォーム課税(海外ECへの登録義務)とのダブルインパクトに注意が必要
はじめに
「タイ向けに日本から小口商品を直接送れば関税がかからない」——そう思って越境ECや海外直送の事業モデルを構築してきた企業にとって、2024年7月のタイの制度変更は大きな転換点です。
タイ政府は2024年7月1日、輸入品に対する**関税免除の最低基準(de minimis threshold)**を廃止しました。これにより、金額に関わらず原則としてすべての輸入品が関税・付加価値税(VAT)の課税対象となります。日本の越境EC事業者・タイ向け小口輸出を行う日系企業が、この変更の内容と実務対応を正しく理解しておくことが急務です。
1. de minimis廃止とは何か
「de minimis」とは
「de minimis(デ・ミニミス)」とは、ラテン語で「最小限のもの」を意味し、貿易・税務の文脈では「少額貨物に対する関税・税金の免除基準」を指します。多くの国では、一定金額以下の輸入品については、通関手続きのコストや効率化のために関税・VAT等を課税免除としています。
日本ではCIF価格1万円以下の個人使用目的の貨物について関税・消費税が免除されていますが(条件あり)、タイでは従来1,500バーツ(約6,000円)以下の輸入品が関税免除の対象でした。
タイのde minimis廃止の概要
2024年7月1日をもって、タイはこの1,500バーツのde minimis基準を廃止しました。これにより:
- 金額にかかわらず、すべての輸入品が関税の課税対象となる
- VATについても、従来免除されていた少額輸入品が課税対象となる
- 宅配便・郵便物を通じた小口輸入品も対象
この動きはASEAN全体で拡大しており、インドネシア・ベトナム・マレーシアも同様の制度変更を実施・検討しています。
2. なぜ廃止されたのか
国内小売業・EC事業者の保護
最大の背景は、タイ国内の小売業者・EC事業者からの強い要請です。TikTok Shop・Shopee・Lazadaを通じて中国からde minimis基準以下の価格で大量に流入する低価格商品が、タイ国内の事業者の競争力を著しく損なっているという問題意識が、廃止の直接の引き金となりました。
中国のEC事業者が1,500バーツ以下に価格設定・荷口分割することで関税を回避していたケースが横行しており、「国内外の公平な競争条件の確保(レベルプレイングフィールド)」がタイ政府の説明理由です。
OECD加盟・国際標準との整合
多くのOECD加盟国はde minimis基準の引き下げまたは廃止を検討・実施しており、タイのde minimis廃止はこの国際的な流れとも整合しています。
3. 日系企業への具体的な影響
① 越境ECで日本からタイ向けに直送している企業
従来、日本の通販・ECサイトがタイの消費者に直接商品を発送するビジネスモデルでは、1,500バーツ以下の商品は関税・VAT免除というメリットがありました。廃止後は:
- タイ着の全商品に**輸入関税(品目ごとに0〜30%程度)**が課税される
- **VAT(7%)**も全商品に課税される
- 通関手続き・関税費用が消費者または事業者の負担となる
商品価格・送料・関税・VATの総コストが高騰することで、タイの消費者にとっての実質価格が上昇し、競争力が低下する可能性があります。
② タイのプラットフォーム(Shopee・Lazada等)経由で販売している企業
タイは2021年以降、海外のデジタルサービス・ECプラットフォームに対してタイへのVAT登録・申告を義務化しています(エレクトロニクスサービスに関するVAT法改正)。de minimis廃止は、これと組み合わさって:
- プラットフォームがタイ当局への報告義務・VAT徴収義務を果たす仕組みが整備されている
- 日本の出品者がプラットフォーム経由でタイに販売する場合も、関税・VATの課税を免れなくなる
③ タイ現地法人を通じて輸入している企業(B2B)
タイに現地法人・合弁会社を持ち、そこが日本の親会社や関連会社から部品・製品を輸入しているケースでは、de minimis廃止の直接的な影響は限定的です(従来から関税・VATの申告が必要だったため)。ただし:
- 小口の試作品・サンプル輸入について、従来免税だったものが課税対象になる
- 「少量ずつ送ることでコストを下げる」という従来の実務の見直しが必要になるケースがある
4. 実務的な対応策
① 商品価格・物流コストの再計算
タイ向けの商品について、関税率・VATを含めたトータルコストを再計算し、価格設定・物流モデルの見直しを行うことが考えられます。品目分類(HSコード)の正確な確認が前提となります。
② タイ現地在庫の活用(フルフィルメントモデルへの転換)
従来の「日本から直送」モデルから、**タイ国内に事前に在庫を置くフルフィルメントモデル(現地倉庫+現地配送)**への転換を検討することが、関税・物流コスト最適化の有力な選択肢です。BOI奨励と組み合わせることで、保税倉庫・フルフィルメントセンターの活用も選択肢になります。
③ 関税分類(HSコード)の最適化
同じ商品でも、梱包形態・関税分類の工夫によって適用される関税率が変わるケースがあります。タイの関税専門家とともに、正確かつ適法なHSコード分類を確認することが重要です。
④ FTA(自由貿易協定)の活用
日本・ASEAN間のFTA(AJCEP)やタイ・日本間の経済連携協定(JTEPA)を活用することで、一部商品について関税率を引き下げ(場合によっては0%)にできる可能性があります。FTA特恵税率の適用には原産地証明書(CO)の取得が必要です。
5. 今後の見通し
タイのde minimis廃止は正式に施行済みですが、小規模事業者への影響緩和策や執行上の運用の細部については、引き続き調整が行われています。ASEANにおける同様の制度変更の動向とあわせ、今後の規制の詳細に注目が必要です。
まとめ — 今やるべき3つのこと
① タイ向け商品の関税・VAT込みのトータルコストを再計算する
HSコードと関税率を確認し、de minimis廃止後の実質価格・利益率を現行の事業モデルで試算してください。
② フルフィルメントモデルへの転換可能性を検討する
日本直送からタイ国内在庫・現地配送へのモデル転換が、コスト最適化の有力な選択肢になりえます。
③ FTA特恵税率(AJCEP・JTEPA)の活用可能性を確認する
日・ASEAN間のFTAを活用できれば、一部商品の関税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
これらの対応には、タイの関税・通関手続きと日本の輸出規制の両方に精通した専門家のサポートが有効です。当事務所では、提携先JTJB International Lawyersのタイ人弁護士と連携して対応いたします。
タイ向け越境ECや輸出入手続きに関する実務的なご相談は、お気軽にお問い合わせください。
本記事はタイの法制度に関する一般的な情報提供を目的としており、タイ法に基づく法的助言を構成するものではありません。具体的な案件については、タイの弁護士資格を有する専門家にご相談ください。当事務所では提携先JTJBのタイ人弁護士と連携して対応いたします。